8.礼儀正しい人(親子関係でも)

礼儀の基本は、言うまでもなく「あいさつ」です。「おはよう」「おやすみ」「ありがとう」「ごめんなさい」。前述のように、それが単に形式である場合が「義理」の世界の特徴であるのですが、「挨拶」は本来は愛の表現の一つです。仕事中は「義理」の世界で、やたらとていねいな人も、「内」の世界である家では最も基本的な礼儀をも失する人であるかも知れません。日本人は「内」の世界と「外」の世界で礼を失することが多いのです。電車でお化粧をすることが問題になっているようですが、そのような女性にとって、車内は「外」の世界であるからです。普段は礼儀正しくても、車を運転すると乱暴になるハイド氏もあります。そのようなドライバーにとって、自分の車の外は文字通り「外」の世界であるからです。

もう一つ私たちが礼儀を忘れやすいのが、「内」の世界です。その代表は言うまでもなく、親子の関係と夫婦の関係です。親子は上下の関係であり、先ほどお話ししたような力の上下関係が入り込んできます。弱肉強食のジャングルの原理です。親は暴力や権力によって、子供をむりやり従わせようとします。一昔前は家制度の名残で、父親の人格がどうであろうと家の中では権力を持っていました。しかし家制度が崩壊した現在は、多くの父親は力を失ってしまいました。そこで腕力の強い父親が、文字通り暴力で子供を従わせようとする悲劇が後を絶ちません。あるいは子供の腕力が上回ったときには、その逆の悲劇が起こるのです。

対等の関係である夫婦の間でも礼儀が失われがちです。親子や夫婦の間でも、「先日はお忙しい中ありがとうございました」「先日はご迷惑をかけ申し訳ありません」と仰々しいあいさつをするべきだというのではありません。本来は愛の表現であるあいさつを、夫婦や親子の関係の中でも忘れないようにしましょうと申し上げたいのです。表現の仕方は、「ありがとう」でも「メルシ」でも「ダンケ」でも、「まことにかたじけなくそうろう」でも何でもいいのです。